他山の石 高所作業車の落下事故からの技術開発者が気をつけるべき教訓

生産関連の技術開発で怖いのは、新しい試みのなかで起きてしまう事故。技術の進歩を焦るあまり、人を傷つけることがあってはならない。

エレベータシャフトから高所作業車が落下

工事現場での事故が報道されるたびに、「うちか?」と気になってしまいます。そして時として、自分の会社が関係していることもあります。他社の事故だとしても、原因をきちんと知ることができれば、他山の石としての価値はあるかもしれません。

そこで今回とり上げるのは、多くの企業が夏休みに入った日、8月11日に起きた、丸の内のオフィス工事現場で起き、テレビなどのメディアでも報道された、エレベータシャフトでの死亡事故です。

報道によると、エレベータシャフトの床開口を塞いでいた、仮設のデッキプレートに高所作業車が乗ってしまい、5階から地下3階のピットまで落下したということです。

デッキプレートは、本来は床コンクリートの荷重を支えるだけの強度があるので、人が乗ったくらいで抜けることはありません。(それでも私は仮設の開口塞ぎには決して乗りませんけど。。。)

事故が起きたのは「壁の基礎を作っていたとき」と報道されましたが、なぜそれが高所作業車をデッキに乗せることになったのかは、よく調べていないので分かりません。ALC壁のための金物を取り付けようとしたのか、軽量鉄骨下地(LGS)のランナーを取り付けようとしたのか、そんなところかもしれません。

いずれにしても、高所作業車をデッキプレートに乗せるのは、エレベータシャフトが「落とし穴」であることを知らなかったとしても、操作ミスでうっかり乗ったとしても、あまりにもお粗末です。こんなことで命を落とすのは、悔やんでも悔やみきれません。ましてや、他人の事故に巻き込まれてしまっては、遺族のやるせなさは、いかほどでしょうか。

自動化技術への課題

この事故の報道を見て、私が思ったのは、いくつかのゼネコンが進めている自動搬送に関する技術開発です。

竹中工務店が開発した人に追従する搬送機「かもーん」や、清水建設が最近発表した搬送ロボット、大林組の自動搬送機などは、とりあえず段差のない平面で利用することを想定しているようです。それぞれの搬送機には段差や床開口があれば停止するようなセンサーがついているのかもしれません。(「かもーん」のカタログでは人に追従するセンサーは強調されていますけど、床端部を検出するセンサーについて言及されていないのですが、センサーはついているのかな?)

しかし、建設現場、とくに集合住宅の現場では、床段差があるため、早晩、床段差を越える搬送機を作りたくなるでしょう。

問題は技術的な進歩が新たな技術課題を生み出すことです。

もし、段差を乗り越える搬送機ができたとすると、高所作業車がデッキプレートにのって落下してしまったのと同じ問題を回避しなくてはならなくなります。

つまり、いまから走行する床は、十分な強度がある床なのか、乗ってはいけない弱い床なのかを判断する必要がでてくるわけです。

そのためには、コンクリートの床なのか、デッキプレートなのか、ベニヤ板なのかといった材質を区別する技術開発が必要になります。

同じコンクリートでも、強度が出た床なのか、打設直後の若い床なのかを区別するのは、さらに難しいです。ベニヤ板も、単に床養生のために置いてあるものか、(よく、赤いバッテンと「乗るな」の文字が書いてある)開口塞ぎなのかを区別するのも難しいでしょう。

そういうところは走らせないという運用ルールは設けるとしても、うっかり走行経路を間違って設定したり、うっかり開口塞ぎをまたいで歩いていく人に追従したりすることを考えると、なんらかの安全装置を設けるべきだと思います。

まずは高所作業車にセンサーをつけましょう

高所作業車の操作中に起きる死亡事故はほかにもあります。上昇中に、手すりから身を乗り出して下を見ていたために、手すりと梁に挟まれてしまうとか。

高所作業車がこれほど多用されていて、死亡事故が起きているにも関わらず、安全装置はついていません。

いまの時代、センサーはずいぶん安くなっていますよ。段差や床開口があったらそれ以上進めないとか、人の体を挟んだくらいの抵抗を感じたら上昇を停止するとか、手すりから乗り出しているときはそもそも上昇させないとか、できることはあると思うんですけどね。危険が近づいたら注意喚起の音を出すだけでも、死なずにすんだ人はいると思います。

レンタルのニッケンさん、そういうものを作りませんか?