清水建設の魔法の質量増幅装置「ダイナミックスクリュー」

質量保存の法則は物理学の公理である。清水建設はそれを越えた。

悪夢の減衰振動

清水建設が開発し、すでに適用していた高性能制振ダンパー「ダイナミックスクリュー」が評定を取得したと報道されました。物理学の常識を覆す、驚きの装置です。ノーベル賞も間違いありません。

嘘です。

ですが、今日はこれについて。

物理の授業でやった振動、しかも減衰振動の微分方程式とか、もう思い出したくありませんが、サラリと書いておきます。

単振動の勉強をしたことがある人なら、質点に働く力として、変位に比例する力をまず学びます。

これです。

F = -kx

ここで、Fは質点にかかる力、xは変位、kは復元力定数です。

バネで言い換えれば、おもりのついたバネが伸びると(おもりがプラス側に変位すると)、それに比例する力がマイナスの向きにかかるというヤツです。バネの場合、kはバネ定数と呼ばれます。

つぎに学ぶのが(学ぶつもりがあれば、ですけど)、速度に比例する力を考慮する減衰振動というものですね。

F = -kx – bv

ここで、vは速度、bは定数と考えます。厳密には、速度に比例する逆向きの力ってなんだ?という疑問が湧きますが、とりあえず、早いスピードで走るときに感じる空気抵抗のようなものを想像しておきましょう。

この延長で考えれば、加速度に比例する逆向きの力を考慮しましょうとなります。すると、

F = -kx – bv – ca

ここで、aは加速度、cは定数とします。

加速度に反応するダンパー

とりあえず、最後の式に注目しましょう。

F = -kx – bv – ca

-kx は、(バネで言えば)バネが伸びたことで逆向きに働く力です。
-bv は、質点が素早く移動することで逆向きに働く力です。空気抵抗とか、床の摩擦とか、そんなものをイメージすると理解しやすいでしょう。

そして、

ca は、質点が急加速したりや急ブレーキをかけることで逆向きに働く力です。このcって、とりもなおさず、質量そのものじゃないでしょうか。重いものは動かしにくく、止めにくいわけですから。

そして、定数(kとbとc)をうまいこと決めてやれば、振動がコントロールできるということが、なんとなく推測できると思います。

清水建設の開発したダイナミックスクリューは、原理的に、この質量に反応するときの反応のしかたを制御する装置です。

質量を大きくすれば動きにくいのです。

地震がガタガタっときたとき、どっしりと構えて揺らさずに耐える。そんな装置です。

ダイナミックスクリューの仕組みはこうです。

形はオイルダンパーみたいな筒状でして、シリンダーにピストンがついているような外観をしています。そして、振動が入力されると(ピストンが伸び縮みすると)、抵抗を感じるところもオイルダンパーに似ています。

しかし、オイルダンパーが速度に比例して抵抗を感じるのと違い、加速度に比例して抵抗を感じるのです。つまり、押しているときに急に引き戻そうとするときに大きな抵抗を感じるのです。

あたかも、棒の先に巨大な鉄の塊がついているような感覚です。

その巨大な鉄の塊として、今回評定を取った装置では、2,500トン、4,000トン、6,500トンの3種を用意しているようです。それを、4,500分の1とか7,000分の1とかの軽いおもりで実現しているということです。

大雑把に言えば、1トンのおもりを数千倍に増幅する装置というわけです。

物理学の限界を越えました。

存在しない質量を、清水建設が生み出しました。

質量保存の法則やエネルギー保存の法則はどこに行ったのか。。。

とにかく、小さな質量を数千倍に増幅することで、揺れにくくするという発想はなかなか面白いですね。

種明かしをすると、軸方向の直線運動を、ネジを使って回転運動に変換します。おもりを軸から離すほど、回転の抵抗が増しますから、この方法を使って、直線運動にとっての見かけの質量を自在にコントロールできるわけです。

開発した人、頭いいですね。

わたしは微分方程式を見ただけで、あきらめます。