研究開発の意気込みが透けて見える、スーパーゼネコンの研究開発投資

総合建設業の研究開発投資を比べてみました。

まずは有価証券報告書を見てみよう

製造業に比べてゼネコンの研究開発投資はあまり大きくありません。ゼネコンは、製造業のように新製品を作って売るわけではないのですが、それでも建物の使い勝手を良くする技術や、構造性能を向上させる技術など、売るための技術はあります。

さらに、このウェブサイトで採り上げているように、生産性を向上させる技術や、施工計画や施工管理業務の効率化や高品質化を目指すものも多いです。研究開発成果の利用者が社内の現業部門(建設現場)や協力会社というものです。

さて、研究開発投資の規模を知るにはどうすればいいのか。

それは企業が公表している「有価証券報告書」とか「決算短信」のような、投資家向けの公式の文書を参考にすることができます。

露骨な同族経営で知られる竹中工務店も有価証券報告書は公表していますよ。決算短信は上場企業しか作成しませんから、非上場の竹中工務店にはありません。

各社のウェブサイトに行って、「投資家のみなさまへ」とか、「IR資料一覧」とかのページを探します。

これらの報告書は、四半期ごとに発表されますが、ここでは一年分で見るので、(第○四半期〜ではなく)「第○期有価証券報告書」とか「2017年3月期有価証券報告書」のような、年度末に公表されるもの(公表時期は年度末から大体一ヶ月半後)を選びます。

では、さっそくスーパーゼネコンの有価証券報告書をダウンロードしてみましょう。ほかの会社でもやり方は同じです。就職活動をしている学生は、一度見ておくといいのではないでしょうか。

。。。♪(ほどよいBGM)

はい、私の手元には、さきほどダウンロードしておいた直近年度の期末の有価証券報告書がありますので、売上高と研究開発費(表中、R&D費)を一覧表にしてみましょう。各社、100ベージくらいあるので、慣れていない人は、PDFを「研究開発費」で検索するのが楽です。

表の順序はSKOTTです。他意はありません。

会社 売上高 R&D費 割合
清水建設 1兆5674億 101億 0.65%
鹿島 1兆8218億 82億 0.45%
大林組 1兆8727億 105億 0.56%
大成建設 1兆4872億 111億 0.75%
竹中工務店 1兆2165億 70億 0.58%

研究開発に積極的なスーパーゼネコンであっても、研究開発費は、概算で100億円売上高のおよそ0.6%程度と覚えておくといいでしょう。

研究開発費の中身

どうですか?

思っていたより多いですか?少ないですか?

売上高に対する割合そのものは、たいして意味があるわけではありません。規模の違う会社の投資額を比較するために、参考までに売上高との比率で示してみました。営業利益とか経常利益とかと比較するのもいいでしょうけど、利益は年による変動が大きいので、売上高比率で見ておけば困ることはないでしょう。

さて、有価証券報告書には、この100億円というのは、「販売費および一般管理費に含まれる研究開発費の総額」のような見出しで説明されています。この見出しは会社によって少しずつ違います。また、ある会社では研究開発費に計上するけれども、別の会社では計上しない項目などもあります同じ会社でも、計上の範囲を変更することもあります

そのため、研究開発費が多い企業ほど研究開発に積極的であるとは限りません。

研究開発費の大きな部分は人件費です。技術研究所や技術開発部門の従業員の給料がこれにあたります。

スーパーゼネコンの中堅どころの年収は、ざっと1000万円です。(ケタの話ですよ)

研究所の職員・研究員、技術開発担当職員が300人いるとすれば、人件費だけで30億円です。

その人たちを維持するための事務所費などの「販売費及び一般管理費」は、人件費の倍くらいと概算すると、60億円。

研究施設や試験装置などの固定資産の減価償却はこの60億円に含まれます。(近年、研究施設を更新したところが多いですね。しばらくは、減価償却費で研究開発費が圧迫されるところ、多いですよ。)

すると、「なんだ、研究開発テーマに振り分けられる予算(試験体を作ったり、実験をしたり、国内外の学会に参加したりするための予算)は人件費よりも小さいんだな」、ということが推測できます。

こんなもんです。

100億あっても、研究員や技術開発テーマに割り当てられる予算は意外と少ないでしょ?

いまのうちに飛び立てるか?

定常的に見れば、研究開発費はさほど多いとは言えないのですが、昨年あたりからゼネコンの利益は記録的に上昇していて、この勢いに乗って各社とも研究開発にドライブがかかっているように思います。かつてのバブルのにおいを感じなくもありません。

建設業の好景気が落ち着くまでに、新しい建設業の形を作り上げて、安定成長を実現するのは、はたしてどこでしょうか。