吊荷旋回制御装置の背後に物理学がある

吊荷の回転を止める画期的な方法。フライホイールの軸を傾けるだけで、ピタリと静止する。

吊荷は回る

通常、クレーンで資材を吊るときは、資材に回したワイヤーをクレーンのフックに掛けます。フックは回転するようになっています。吊荷を思う向きに向けなくてはいけませんからね。

逆に言えば、いちど吊荷が回りだすと、止めるのが大変です。

吊荷には、介錯ロープというロープをぶら下げておいて、鳶工などはこのロープを引っ張って、吊荷の向きを調整します。吊荷が重い時には、オットットとなりながら止めることになります。

風が吹いたり、思い吊荷が回転したりしたときは、吊荷の位置決めが結構たいへんなんですね。

スカイジャスター登場

そこで大林組が吊荷をピタリと止める画期的な装置を開発しました。その名も「スカイジャスター」。

戸田建設も(多分)同じ仕組みの「ジャイアン」なる装置を開発したと発表しましたが、ここはオリジナルである大林組の装置を紹介しましょう。正確に言えば、大林組ではそれ以前にも「ジャピタス」という同種の旋回制御装置があるのですが、メディアなどで紹介された「スカイジャスター」のほうが知名度が高いでしょう。

ちなみに、建設業界の開発ものには、よく似たものがあります。それぞれが特許をとっていたりするところを見ると、微妙に違いがあるのでしょうけど、建設業界の発明なんて似たりよったりです。

さてさて、百聞は一見に如かず。大林組のスカイジャスターの動画を見てみましょう。リンク先のページの下の方に動画があります。回転している吊荷が、カツン!と止まります。何かに当たって止まったかのように止まります。

大林組のスカイジャスター

見てみましたか?

宙ぶらりんの吊荷がカツンと止まるでしょ。これ、仕組みを知らなければ魔法みたいでしょ。

私たちは科学教育を受けていますから、フライホイールの軸を傾けることで、フライホイールの回転軸と傾け動作の回転軸との両者に直交する方向に力を受けるという科学的事実を知っています。

知らない?覚えていない?

昔の人なら、「地球ゴマ」で遊んだときに、奇妙な力を経験したことのある人も多いでしょう。あのクニャリとした不思議な力です。

技術開発を進めるには科学知識が大事

私がこのスカイジャスターを見たときは、「なるほどなぁ」と感心しました。

たしかに、日本の科学教育を受けたひとなら、ジャイロ効果についてはいくらか知っているはずです。昔、地球ゴマで遊んだ人なら、あの「ありえない方向に受ける力」を経験しているはずです。

でも、それを開発に活かせるかどうかは、別問題。

吊荷の回転を止めたいと考えたときに、吊荷(あるいは吊り冶具)に扇風機をつけるのではなく、フライホイールをつけることも選択肢として思いつくような開発者でありたいですね。

ちなみに、吊り冶具に扇風機をつけた開発者の立場に立って、スカイジャスターにケチをつけるとすれば、こんなことを言うでしょう。

「そんなに重い吊荷を制御できるほどのフライホイールをずっと回転させるなんて、どんだけ電気を食うんだ?それだけ回転させるのに、どんだけ時間がかかるんだ?」

そうなんですよ。実は、フライホイールを回転させるのに結構な時間がかかるらしいですよ。とりあえず、一番エネルギーを使う起動時でも商用電源で起動できる設計にはなっているようです。それを差し引いても、このスカイジャスターの効果は大きいですね。