現場監督が下請け企業に架空発注をして裏金を作るのに、なぜバレやすい人数の水増しをしたのか。
人数か単価か
技術の話ではありませんが、建設業の経済・会計について知っておくことは、建築生産を考えるうえでも役に立ちます。
報道内容の要旨は次のようなところです。
清水建設が福島第一原発1号機の建屋カバーの解体工事において、実際には20人しか作業員がいないにもかかわらず、22人が働いたことにして、3年間で約1500人工の作業員を水増しし、約4000万円分を余分に東京電力から受け取った。
事実関係の調査は、別のソースに委ねることにしまして、ここでは「なんで、バレやすい人数の水増しをしたんだろう?」ということについて考えます。
存在しない人を存在することにすれば、あとで調べたときに簡単に足がつくであろうことは想像できるはずです。もっとも、3年間バレなかったということを考えると、元請け、下請けが口裏を合わせるとなかなか見つからないということかもしれません。
それでも、存在しない人物を作り上げて労務を1割増やすよりは、単価を1割上げれば、合法的に下請けにお金を流すことができたはずです。
なぜ、単価でなく、人数で、水増しをしたのでしょうか。
集中購買だから
答えは、おそらく清水建設は集中購買で専門工事会社と取極め(とりきめ)をしているから、と考えられます。
取極めとは、工事着手前に、単価、施工数量あるいは工数、および請負総額を決めておく契約方法です。
集中購買とは、現場の判断で請負先(専門工事会社)や請負金額を決めるのではなく、本社の調達部のような部門が、現場からの申請に応じて、請負先と交渉して契約内容を決める方法です。現場は、専門工事会社について希望は伝えることはできるでしょうが、最終的な契約条件は調達部門が決めるため、現場の所長が勝手に単価を水増しすることはできません。
そのため、現場で水増しをしようと思えば、工数のほうをふかすしかないわけです。
集中購買は、多くの契約データをバックデータとして、業者と交渉できるため、適正な(ゼネコンの立場に立てば、できるだけ安い)契約を取りつけるために有利だとされますが、ある意味、不正の起きやすい契約業務を、利害関係のない(全社最適を考える)調達部門でまとめて行うことで、不正を防いでいるとみることもできます。
今回の架空発注も、そうした仕組みのおかげで、(遅きに失した感はありますが)あぶりだすことができた、とみることもできるわけです。
事件の経緯や、調達方法などについては、私の想像が多分に含まれますので、正しい事実関係は今後の捜査や報道に注目したいと思います。ここでは、建設業の経済について情報提供しました。
ところで、単価がわかりました
福島第一原発での工事の労務単価が分かりましたね。
線量計を持つ必要のない、放射線レベルの低い場所での作業に従事したことにされた1500人で4000万円。1人工 2万6000円程度ということです。タイベック(あの白い防護服)を着け、線量計を持って作業する場所では、さらに手当てが上乗せされるはずです。
これは、東京電力が清水建設に支払う金額ですから、元請け、下請け、孫請け、…と、契約が重層している場合、末端の作業員の給料がいくらなのかは本当のところは分かりませんが、なんとなく想像できます。
福島第一原発の除染事業は、まだまだ緒についたばかりです。