東京タワーの先端から軟式野球ボールが見つかった謎の答えを教えてあげる

今から5年前、2012年7月10日午前1時頃、東京タワーの先端部の修理中に、構造体の中から軟式野球ボールが見つかった。
当時、世間の注目を引いたが、その謎について、誰もほんとうのことを言わないので、ここでタネを明かしてみる。

事実関係の整理

東京タワーは1958年に建てられた。鉄塔の先端部は以来、取り換えられていない。

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって東京タワーも大きく揺れ、先端部分が変形した。

2012年7月に先端部分を修理していたところ、構造体の中(中空部分)から、劣化した軟式野球ボールが見つかった。

作業員のいたずら説や、ストックヤードに材料を置いていた時に偶然飛び込んだ説などが上がったが、謎は謎として残された。

当時の東京タワーの作業工程を知っているひとなら、「ああ、あれだ!」と思いつくはずの「答え」は、建設業者の胸の内にしまわれたまま5年が過ぎた。

時代のロマンを心に残しておきたい人は、この先を読まないでください。

ネタばらし

ネタばれ注意!

なので、しばらく空白行を続けます。

読みますか?

引き返すなら、今ですよ。

では、答えを書きます。
引き返す、最後のチャンスです。

リベット接合に使う工具の部品です

東京タワーは、いまでは使われない、リベット接合を採用しました。

いまは、鉄骨造といえば、摩擦を利用した高力ボルト接合を使いますが、当時はリベットが当たり前でした。

リベット接合というのは、接合する部材の孔を合わせて、その中に赤熱したリベットを通し、両側から叩くように圧力をかけて、リベット自体をかしめて孔を埋め、その支圧で鉄骨材料を一体化する接合方法です。

むかしむかしの高度経済成長期の記録映像とか映画をみると、町に建設工事の「カンカンカンカン」という音が響き渡っていますが、これがリベットをかしめている時の音です。

いまでは建設中の騒音はクレームの対象でしょうが、(むかしもそうかもしれませんが)当時の経済成長の勢いを象徴する音風景のような懐かしさもあります。

さて、リベット工法では、赤熱したリベットを両側から圧力をかけて、カンカンカンカンと叩くわけですが、叩くといっても、作業員がトンカチで叩くわけではありません。

丸い頭部(丸ネジの頭みたいな方)を、先端のくぼんだ鉄の棒を押し付けて、体重をかけて押さえつけます。そして、反対側から、機械式のリベッターがカンカンカンカンと勢いよく振動を与えて叩き潰すわけです。

鉄の棒に体重をかけて押さえつけるとき、押さえるところには、手が痛くならないように、クッション代わりに軟式野球ボールを取り付けてありました。

つまり、リベット接合において、軟式野球ボールは一般的な道具の部品だったわけです。

もっとも、それを鉄塔の閉鎖空間に入れた理由は、やっぱりいたずらだと思います。数十年先、もしかしたら百年先の未来人がびっくりする様子を、ニヤニヤと想像しながら、若い職人がこっそり入れたんだと思います。

決して、そばでやってた野球のボールが偶然飛び込んで、気づかれないまま、溶接されたわけではありません。

そういえば、東京でみなさんが目にする、とある構造物の先端にも、現場監督や職人が、自分の名前を書いて残してあります。発注者がそこまで上がってきたらバレるのでしょうが、よほどの物好きでもなければ、そこまで来ませんからね。百年後の人たちが見つけて話題にしている様子を想像すると楽しいです。

信じるか信じないかは、あなた次第。

月曜日は7月10日です。

「ちょうど5年前に東京タワーの中から野球のボールが見つかった事件、覚えてる?」

そんな会話をしてみてはいかがでしょうか。

後日、証拠写真を入手!