建築施工の技術開発をやっていると重機を扱うことがよくあります。業界にいると当たり前に使っている名称が、実は固有名詞だったりすることに気づくこともあるんです。ユンボだけじゃなくラフターもそうなんです。
ラフタークレーン いかだのようなクレーン?
タイヤがついていて道路を自走することができ、ブームがテレスコになっていて伸縮することができるクレーンです。車体には「TADANO」か「KOBELCO」か「KATO」の文字が書かれています。
オペレータ自身が運転するものですから、現場には、朝やってきて、夕方帰っていきます。そのため、狭隘な現場では、揚重作業のある日にだけ呼ばれることも多いでしょう。現場の前の道路に陣取っていることもあります。現場で揚重作業をしているときは、車体の横方向にアウトリガーという足を広げて、タイヤを浮かせるように踏ん張っています。
みんな、このクレーンをラフタークレーン、略してラフターと呼びますが、クレーン関連の教科書や建築施工の教科書にはラフテレーンクレーンと表記されています。その説明には、「ラフテレーンクレーン(rough terrain crane)は、荒れた地形などの不整地を走行することのできるクレーン」などと紹介されています。
恥ずかしながら、以前わたしは、「rafter crane」だと思っていました。ラフティングのraft。しっかり考えもせず、ラフティングのような動きをするからラフターだと。。。
だって、クローラークレーンは、這う(crawl)ような動きをするから、クローラークレーンでしょ。だったら、ラフターはボートが水面を走るように上下にバタバタした感じがあるから、などと思ってました。
クレーンの解説書に一切「ラフター」の言葉で出てこないことに気づいた私は、
「これって、うちの会社だけの隠語?それとも先輩が読み間違えているだけ?」
と、疑ってしまいました。
そんなとき、迷わずGoogleに聞きましょう。オーケー、グーグル!
はたして、「ラフター」は、加藤製作所のラフテレーンクレーンの商標だということが分かりました。
「タダノのラフター」という言い回しはおかしいということですね。
※ベトナムではバイクのことをホンダというらしいです。「俺のホンダはカワサキだ」とか言うんですかね。
あえて「ラフテレーンクレーンのオペさん」などと言うと教習所っぽくなるので、タダノが来ても、コベルコが来ても、私はこれからも「ラフター」と言い続けます。
象さん
さて、たまに公道を走行しているラフターを見かけることがあります。信号が変わると、ブオーとエンジンを唸らせて走り始めますが、音のわりにスピードは遅いですよね。
実は、ラフターは最高速度が、50km/hに制限されているようです。そのせいか、威圧感を感じません。
逆に、大型のトラックやトレーラーに背後をとられたときの威圧感はただ事ではないですよね。信号が変わりかけてブレーキをかけたら、後ろからそのまま轢かれるんじゃないかと不安になりますよね。
そんなことを考えながら、青系の色にペイントされたラフターが「プオーン」と唸りながら、ドタドタと走っている様子を見ていると、思わず「♪ 象さん、象さん」と口ずさんでしまいます。
これまで会ったクレーンのオペさんに、オラオラ系の人はいません。そのへんも象さんに合っているかなと。
テレスコ
機械ものの開発をしていると、伸縮機構を考えることがあります。そのしくみの一つが、テレスコです。海賊がおもむろに取り出して、スッと伸ばして覗きこむ望遠鏡。それがテレスコープです。
テレスコープという言葉自体は、「遠方 tele」+「見る scope」ですから、まさに「望遠鏡」ですが、その「筒のなかに筒が収まるしくみ」をテレスコーピック telescopicと表現するようになりました。
ラフターのブームもテレスコになっているわけですが、滑車をうまく使って、ワイヤを短く巻き取るだけで、テレスコのブームが素早く伸びる仕組みでできています。外から見ても、分かりませんけどね。
今回は、用語解説でした。