ビル火災映画「タワーリング・インフェルノ」に見る建築家の役割

ロンドンで発生した高層集合住宅の火災は、古いパニック映画「タワーリング・インフェルノ」を彷彿とさせた。映画は米国の建築家の役割を垣間見る参考資料でもある。

タワーリング・インフェルノ

映画はフィクションではありますが、高層建築物で火災が起きたときに、避難や安全確保がいかに困難かを描いていて、現代の高層建築の安全を考えるうえで、なかなか興味深い作品です。ずいぶん古い映画なのですが、いま見ても面白いと思います。

CGのない時代の映画ですから、炎上する建物はスケールモデルとはいえ、高さ20mを超える模型を製作したと聞いています。また、CGを多用するいまの映画と違って、俳優たちの体を張った演技は映像のリアリティを高めていますし、とくに最後のシーンはかなり危険な撮影だったと思います。

と、映画の紹介はここまでにして、建設業の話をしましょう。
映画に興味のある方はレンタルしてみてください。

発注者(オーナー)と建築家(アーキテクト)と施工者

この映画で、建築生産の関係者が興味を持つのが、発注者と建築家の関係です。

落成記念パーティの最中に、電気系統の発熱によって小さな火災が発生したとき、建築家は自分が指定した仕様どおりに電気工事が行われていないことに立腹します。実は、コスト削減のために、発注者が工事責任者に、仕様を変更するように指示していたということがわかります。建築家はこの後、危険の及んだ来客を避難させるために英雄的な行動をするわけです。

という展開ですから、とりわけ主人公である建築家の全能性を強調している点は否めませんが、建築家が電気工事の配線仕様にまで口を出すの?という疑問は残ります。

日本の建設業界では、建築家の描く設計図(意匠図)は、1/100程度の平面図断面図、もうちょっと詳細な矩計図、そのほか、展開図とか建具図とか、諸々の詳細図などで構成されます。構造図は躯体の断面や鉛直方向の高さなどを指示します。設備の図面は、電気、空調、衛生などに分かれて、配線系統や仕様、ダクトなどを指示します。

でも、施工に使う図面は、これらの設計図をもとに、施工者、つまりゼネコンやら専門工事業者やらが、改めて描いています

設計図に基づいていますが、具体的な仕様は、施工図や製作図を描く段階で決定されます。

施工図や製作図は、発注者の代理人である設計者(設計監理)に承認を受けますが、施工者側の知見を盛り込んで作っています。

米国の設計図を見せてもらったことがありますが、設計図のほか、辞書のように分厚い仕様書があって、仕事を漏れなくダブりなくサブコンに発注できるように、すべて細かく決められているとのことです。
日本の習慣と、米国の習慣とは大きく異なります。

設計者と施工者は持ちつ持たれつ

建設現場の監督はときどき、

「施工図を描いている俺たちは、設計者の代わりに設計してやっているようなもんだよ」

なんてことを言うことがあります。まあ、実際そういう面もあるんですが。

一方で、これは、施工者に裁量の余地がある、ということでもあります。

日本の建設業者は、みずから技術開発を行って、よりよい工法や材料を考案しますから、施工者に裁量の余地があるのは、こうした技術開発成果を適用する機会にもなるわけです。設計者は施工者の技術力を頼りにできるし、そこは、持ちつ持たれつということで、私はいい仕組みじゃないかと思います。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする