現場の工程計画を考えるとき、ひとつの作業にかかる時間を求めるのに必要なデータは施工数量と歩掛。
じゃあ質問です。
一辺1メートルの鉄骨柱のジョイント1か所の溶接は何メートルあると思ってんの?
溶接長は6mmの隅肉溶接に換算した値
一辺1mだから、四方あわせて4m?いえ、違います。
柱の鉄骨の肉厚によって違います。
高層ビルの下のほうの階の柱溶接だと、1か所100mくらいになるでしょう。
溶接というのは、ジュジュジュジュと1周すれば終わりというわけではありません。
1周目で溶接できるのは、ごく小さな断面だけです。さらに上塗りするように、何度も何度も、ジュジュジュジュを繰り返します。
1回のジュジュジュジュをパスと言います。何パス必要なのかが、柱の鉄骨の肉厚に依存するので、溶接長は肉厚によって違うのです。パス数は、1パスを脚長6mmの隅肉溶接に換算して算出します。
たとえば、肉厚が28mmの鉄骨が、開先45度のレ形の突合せ溶接で施工されるとします。柱は、一般的に、下側の鉄骨の頂部は水平にカットされていて、上側の鉄骨の底部は斜めにカットされていますので、こんな仮定で説明します。
実際にはルートギャップという隙間があるのですが、ここでは省略して、鉄骨どうしのアキは、二等辺直角三角形であるとしておきます。
この直角三角形の面積(つまり、溶接の断面積)は、28×28÷2=392mm2となりますね。
脚長6mmの隅肉溶接の断面積は、6×6÷2=18mm2となります。
なので、392÷18=21.8パスで、ようやく直角三角形を埋めることができるわけです。
実際には、断面欠損がないように、余盛といって、わずかに盛り上げますから、もう少しパスは大きくなりますね。つまり、柱のジョイント1か所あたり、22パス程度は必要だということです。
1パスが4mなので、1か所の溶接長は、88mということです。
柱の肉厚が32mmなら100mを超えますね。
柱1本を溶接するのに、100mほど溶接するわけです。
一体何時間かかるの?
歩掛は測っておく
1人の溶接工が1日にこなせる溶接長は、熟練度とか、溶接姿勢とか、工具の取りまわしのしやすさなどによって変わるのですが、おおざっぱに100mくらいでしょう。
大梁だと、もう少し小さくて80mくらいかな?
え?大きすぎ?
ゼネコンの監督は「このくらいできるっしょ!」と言いたいし、職人は「いやいや、この工程じゃあ、段取りが悪いから、全然伸びないんだよ」と言いたいし、まあ、どの程度で見積もるかは、腹の探り合いで決めてください。
歩掛が伸びなければ、それだけたくさんの職人を見込んでおかなくてはいけないし、それはとりもなおさず、支払いが増えるということですからね。
一応、きちんとした標準的な歩掛を知りたければ、市販されている積算資料とか、国交省の積算基準とかを参考にしてください。
あとは割り算で
施工数量が設計図から求められ、歩掛がとりあえず仮定できたら、あとは、割り算です。
600mの溶接を、1日80mこなせる溶接工3人でやったとしたら、
600÷(80×3)=2.5日
かかるというわけです。
やっていることは、シンプルですね。
このように算出した時間が作業時間になり、工程表に反映され、クリティカルパスが求められ、工期短縮のターゲットを見つけるという流れができあがります。
技術開発陣は、工期を縮めるならクリティカルパスを狙って改善を行いますし、非クリティカルパスでコストのかかる作業を、作業時間が伸びても全体に影響がない範囲で、より安い工法に置換するなどができるようになります。
技術開発には、施工数量を知ること、生産性を知ることが重要である、というお話でした。