1枚の建物写真からでも3D形状を作れるか(2-3)たった1枚の写真から奥行情報を推定する方法(第三夜)

建築の部位・部材の稜線や隅は、平行、直角で構成されることが多い。この建築ならではの条件を使って、平面情報から奥行情報を推定することができる。

奥行の求め方

前回の解説<第二夜>では、写真と視点の位置関係を求めるところまでを説明しました。簡単に復習しておきましょう。

図は平面図です。青い太線が写真で、視点は写真の垂直二等分線の上にあり、かつ、2つの消失点の間の線分を直径とする円弧の上にある、ということでした。

では、その写真の位置に画像を表示させてみましょう。説明が簡単になるように、写真は水平線が赤い線に一致するように表示しておきます。

つまり赤い線は、平面図上では写真面を含むスクリーンの位置を、写真上では水平線を表していることになります。ちょっと混乱しそうですが、欲しい情報は次の図にあるように、写真の端、壁の端、開口部の位置なので、それを決めやすいように置いたというだけです。

これなら分かりやすいでしょ。写真の中の水平線と、写真の端、壁の端、開口部とが交わる点が、平面図のスクリーンの位置にもあるわけです。

ここからは、写真を忘れて、平面図だけに意識を向けてください。スクリーン上の点は、写真の端(紺色)とか、壁や開口の位置(黄色)ですから、視点とそれらの点を結んだ直線状に、実際の壁の端や開口の位置があるはずです。

では、とりあえず写真の端の点を、視点と写真の端とを結んだ直線(延長戦)のどこかに決めてしまいましょう。勝手に決めて構いません。適当に決めましょう。

さて、ここからは建築ならではの推定が役に立つところです。第一夜で説明したように、写真の左側の壁の巾木や天井廻り縁を延長すると、右の消失点に集まります。ですから、左側の壁は、視点と右側の消失点とを結んだ直線に平行というわけです。

なので、平行線を引きましょう。そして、壁の入隅があるはずの直線と交わったら、そこが平面図上での壁の入隅です。

壁の入隅が決まったので、今度はそれを起点にして、視点と左側消失点とを結ぶ直線に平行な直線を引いて、開口部の点を求めます。最後には、写真の端まで求めます。

つまり、赤い線(スクリーン)の上に投影されていた点から、逆に奥行を求めたということです。
補助線を外すと壁の位置、開口部の位置、そして視点の位置が、同じ平面図上に表示されていることが分かります。

逆にたどれば写真撮影そのもの

ちょっと分かりにくかったかもしれませんが、この図を下から上に見ていけば、理解しやすいと思います。

つまり、開口のある壁の入隅部を図示された視点から撮影するとします。スクリーン(写真の投影面)を赤い線の位置に決めれば、壁の入隅や開口はスクリーン上の点に投影されます。写真の端は写角で切り取られますから、結果的に図のように、スクリーンから切り取られた写真ができあがるわけです。

最初の点を「適当に」決めたけど、そんなんでいいの?

と思うかもしれません。じゃあ、もっと遠くに点を決めたらどうなったでしょうか。たとえば、写真の端を2倍遠くに取っていたらどうなったでしょうか。

やはり、壁の入隅も2倍遠くに、開口部も2倍遠くにプロットされます。つまり最初の図と、2倍の図は相似形になるだけです。プロポーションは変わりません。相対的な位置関係は変わらないのです。

変わるのは縮尺だけです。

縮尺は、寸法が分かっているものを基準に決めなくてはなりません。たとえば、開口幅が1mと分かっているとしたら、それに合わせて縮尺を決めればいいだけです。

どや、1枚の写真だけでも、奥行情報を推定できる

3回にわたって解説してきましたように、建築のように、垂直、水平、直角、平行の部材で構成される空間であれば、1枚の写真からでも3次元情報を推定することができることがわかりますね。

確かに、写真から水平線を取り出すのは、しかも空間上の平行線を取り出すのは、少々難しいのですが、いったん消失点が求まってしまえば、あとは手作業で作図の要領で、平面図を「逆算」することができるわけです。

今回は、高さ方向については言及していませんが、平面図(水平面)の代わりに鉛直面を使えば、同じように高さ方向についても同じことができます。

ほんとにそこまでやろうとするなら、視点と写真の中の点を結んで3次元的に延長するなんてことは、手で作図するなんてことはせず、コンピュータでやってしまいましょう。

1枚の内観パース写真を撮ってきたら、このアルゴリズムで立体化して、ヘッドマウントディスプレイを使って没入できる、なんてこともできそうです。

時間のたっぷりある学生諸君、お試しあれ。

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